多元世界(プルリバース)とマルチスピーシーズの視点とデザイン思考の限界

2025.03.01 トレンド

私たちは無意識のうちに、自らの文化や価値観を通じて世界を見ています。しかし、気候変動やパンデミック、紛争といった複雑な問題が絡み合う現代において、新たな世界観を持つことが求められています。その一つが「多元世界(プルリバース)」の概念です。

本記事では、人間中心の考え方から脱却し、すべての生物種と共存する「マルチスピーシーズ」の視点を紹介し、政策や経済、デザインの領域でどのように応用できるのかを探ります。

人間中心のデザインは限界にきている?

これまでの都市や環境のデザインは、人間の快適さを最優先に考えて設計されてきました。建物、道路、公共交通機関、公園でさえも、人間の利便性を中心に作られています。

しかし、このアプローチは環境破壊の一因にもなっています。生態系のバランスが崩れ、気候変動が進む中で、私たちはこれまでと同じ価値観で生き続けてよいのでしょうか?

人間以外の生き物も考慮する「マルチスピーシーズ」の視点

人間だけでなく、すべての生き物が共存できるようにする考え方が「マルチスピーシーズ」です。この視点を取り入れることで、環境問題を解決し、より持続可能な社会を作ることが可能になります。

愛媛大学のルプレヒト准教授の研究では、ゲーム・アート・フィクションを活用して、異なる生物種と共生できる社会のあり方を探求しています。

マルチスピーシーズが目指す世界

これまでの社会では、人間を中心に物事を考え、他の生物を単独の存在として扱ってきました。しかし、実際にはすべての生き物は相互に影響を与え合っています。

例えば、農作物の単一栽培(モノカルチャー)は、ウイルスや害虫の被害を増大させ、生態系のバランスを崩します。より多様な生態系を考慮した設計が必要なのです。

「行為者性」の認識を広げる

すべての生物は環境に影響を与える行為者(アクター)としての側面を持っています。例えば、新型コロナウイルスはその行為者性によって世界に大きな影響を及ぼしました。

マルチスピーシーズの視点では、「人間だけが環境を変える存在ではない」と捉え、他の生物が持つ影響力を考慮することが重要だと考えます。

プラネタリー・バウンダリーと人間中心設計の限界

地球環境の限界「プラネタリー・バウンダリー」

「プラネタリー・バウンダリー」とは、地球の環境負荷の上限を示す概念です。これには気候変動、生物多様性の損失、土地利用の変化、化学物質汚染などが含まれ、人間の活動がこの限界を超えると、地球環境は元に戻らない損傷を受けるとされています。

  • すでにいくつかの領域では限界を超えてしまっており、持続可能な開発が難しくなっている。
  • 人間中心の開発モデルでは、環境への影響を考慮しきれず、結果としてバウンダリーを超えてしまう。

デザイン思考を活かした持続可能な設計

人間中心設計(HCD: Human-Centered Design)は、これまで人間の利便性や快適性を重視してきましたが、今後は 「地球中心設計(Planet-Centered Design)」 へとシフトする必要があります。

  • バイオフィリックデザイン:自然を取り入れ、生態系との調和を重視する設計
  • 循環型デザイン(サーキュラーデザイン):資源の使用を最小限に抑え、再利用を前提としたものづくり
  • レジリエントデザイン:環境の変化に適応し、持続可能な都市やインフラを作るアプローチ

これらの視点を取り入れることで、環境負荷を低減し、プラネタリー・バウンダリーを超えない持続可能な社会の実現が可能となります。


マルチスピーシーズを社会に活かす

政策の変化:生物多様性を考慮した都市計画

  • IPBES(生物多様性と生態系サービスに関する政府間プラットフォーム)の評価報告書では、人間中心の価値観だけでなく、「自然と共に生きる」「自然として生きる」といった多様な価値を認める必要があるとされています。
  • フィンランド・ヘルシンキ市は、「マルチスピーシーズ・シティ」政策を導入し、人間だけでなく、動植物の生態系も考慮した都市設計を進めています。

経済の変化:成長主義からの脱却

経済学者ヨルゴス・カリス氏は「小さく生きる」ことを提唱し、「他の生物種のための余白を残すこと」の重要性を説いています。

  • 無限の成長を求めるのではなく、生態系と調和した持続可能な経済を構築する。
  • 人間が地球上のリソースを独占しない社会のあり方を探る。

まとめ:マルチスピーシーズの視点を持つ意義

私たちがこれから目指すべきは、人間中心の価値観から脱却し、すべての生物との関係性を考慮する社会の構築です。そのためには、プラネタリー・バウンダリーを超えないように社会を設計し、環境と調和した経済・都市計画を進めることが求められます。

また、デザインの領域でも「地球中心設計(Planet-Centered Design)」を取り入れ、持続可能な未来を実現するための具体的なアプローチを導入することが重要です。未来を想像し、新たな共存の形を模索することで、より豊かな社会を築くことができるでしょう。

こうした視点を持つことで、私たちは「多種の時代」を迎える準備ができるのかもしれません。

参考:https://ideasforgood.jp/2024/01/16/helsinki-multispecies-city/

Organizer

Yukey
YukeyCatalyst & Director
セールスマーケティング、エンジニアリング、デザインのすべての業務経験をもち、ベンチャー企業特有の僅少リソースでの事業立ち上げに強みを持つ。活用できるナレッジを組み合わせて戦略を練り、自らサービスデザインを行うことで、初期顧客を開拓する。ビジョン経営にも知見があり、社内の制度設計や組織開発、チームの素質を活かした巻き込み型のリーダーシップを武器に、内外の改革を推進する。2022年、国内ビジネススクールにてMBA取得済み、2025年、国内理系大学院にて技術経営課程在籍。