論文レビュー:企業ビジョン革新のための研究開発戦略の動的アライメント

2025.03.01 論文レビュー

本研究では、企業ビジョンを達成するためのフレームワークとして「マルチプログラム・プラットフォーム」を提案し、そのプロセスとプロトコルを分析することで、研究開発戦略の動的アライメントの必要性を明らかにしています。本フレームワークは、顧客視点と業務プロセス視点の研究開発プログラムを統合的に管理し、企業の共通価値としてのビジョンを達成することを目的としています。特に、スーパープログラム構造、オーケストレーション、意思決定プロトコルの重要性に着目し、これらを適用することで、企業戦略とR&D戦略の整合性を確保する方法を提案。さらに、マツダ、日本航空(三菱化学)などの事例を通じて、実際の適用方法を解説しています。

論文タイトル

企業ビジョン革新のための研究開発戦略の動的アライメント
(Dynamic Alignment of R&D Strategies for Innovating Corporate Vision)

著者

加藤 勇夫 (Isao KATO)
越島 一郎 (Ichiro KOSHIJIMA)
名古屋工業大学大学院
掲載誌: Journal of International Association of P2M, Vol.11 No.2, pp.62-76, 2017

新規性

本研究の新規性は、「マルチプログラム・プラットフォーム」という概念を提唱し、従来の静的な研究開発戦略から動的なアライメントを重視する管理手法へと転換を図った点にある。
従来の研究開発マネジメントは、個別の研究開発プログラムが独立して管理される傾向があり、企業ビジョンとの整合性が取りにくい問題があった。本研究では、企業の共通価値を維持しながらも、変化に適応可能な戦略のアライメント方法を体系化し、特に以下の点で新規性がある。

  1. スーパープログラム構造: 企業のビジョンを具現化する上位プログラムを設計
  2. オーケストレーション: 各研究開発プログラム間の調整プロセスの明確化
  3. 意思決定プロトコル: 企業全体で統一された意思決定を可能にする仕組み
    これにより、異なる組織レベル間での戦略調整が可能となり、動的なR&D戦略の実現を支援する

研究手法

本研究では、戦略の動的アライメントを実現するためのプロセスとプロトコルを設計し、フレームワークとして体系化した。具体的には、以下の2つの視点で手法を構築した。

  1. プロセスの階層構造
    • 企業ビジョン層
    • スーパープログラム層
    • プログラム層
    • プロジェクト層
      これにより、各階層の戦略を動的に調整する仕組みを確立。
  2. プロトコルの設計
    • 垂直方向プロトコル(ビジョンの解釈と組織への浸透)
    • 水平方向プロトコル(実際の業務遂行における意思決定ルール)
      これらの手法により、トップダウンとボトムアップの統合が可能となる

実験方法

本研究では、3つの企業事例(マツダ、日本航空、三菱化学)を対象に、マルチプログラム・プラットフォームの適用方法を分析し、その効果を検証した。

  1. マツダの事例
    • 企業ビジョン「Zoom-Zoom」の戦略転換
    • スカイアクティブテクノロジーの開発(業務プロセス視点)
    • 「マツダ営業方式」による販売戦略(顧客視点)
    • トップマネジメントによる全社のオーケストレーション
  2. 日本航空の事例
    • 経営破綻後の再生戦略
    • 「JALフィロソフィ」による垂直方向プロトコルの適用
    • 「アメーバ経営」による水平方向プロトコルの適用
  3. 三菱化学の事例
    • 研究開発組織の統合改革
    • CTOを中心としたスーパープログラムの設計
    • 一元化されたR&D戦略とオーケストレーションの導入
      これらの事例を通じて、動的アライメントの有効性を実証した。

実験結果

本研究の結果として、以下の3点が明らかになった。

  1. 動的アライメントは、企業ビジョンの達成に有効であり、R&D戦略の統合管理が可能となる
  2. スーパープログラムの導入により、異なるR&Dプログラム間の調整が促進される
  3. 意思決定プロトコルを適用することで、組織全体の戦略実行力が向上する
    具体的には、マツダの戦略転換の成功、日本航空の再建、三菱化学の研究開発改革の事例が、マルチプログラム・プラットフォームの有効性を示している。

考察と展望

本研究は、企業のR&D戦略が企業ビジョンと整合するための仕組みを提供するものの、以下の課題が残る。

  1. 企業文化や組織の柔軟性が影響を与えるため、適用にはカスタマイズが必要
  2. 動的アライメントの定量的な評価手法が未確立
  3. スーパープログラムの運用には、高度なリーダーシップが求められる
    今後の展望として、AIやデータ活用による動的アライメントの自動化、リアルタイムな意思決定支援の開発が求められる。

社会実装に向けたキーワード

企業ビジョン革新、研究開発戦略、動的アライメント、オーケストレーション、意思決定プロトコル、マルチプログラム・プラットフォーム、スーパープログラム、企業変革、イノベーション戦略、戦略マネジメント

論文リンク

https://www.jstage.jst.go.jp/article/iappmjour/11/2/11_62/_article/-char/ja

Organizer

Yukey
YukeyCatalyst & Director
セールスマーケティング、エンジニアリング、デザインのすべての業務経験をもち、ベンチャー企業特有の僅少リソースでの事業立ち上げに強みを持つ。活用できるナレッジを組み合わせて戦略を練り、自らサービスデザインを行うことで、初期顧客を開拓する。ビジョン経営にも知見があり、社内の制度設計や組織開発、チームの素質を活かした巻き込み型のリーダーシップを武器に、内外の改革を推進する。2022年、国内ビジネススクールにてMBA取得済み、2025年、国内理系大学院にて技術経営課程在籍。