論文レビュー:地域製造中小企業の経営理念と経営者のビジョン

2025.02.28 論文レビュー

この論文は、地域の中小製造企業における経営者のビジョンと企業理念の関連性に着目し、経営成果との関係を検討してます。従来は大企業やベンチャー企業が研究対象でしたが、地域中小企業特有の組織規模の小ささや現場の柔軟性を踏まえ、企業の基本価値である経営理念がトップのビジョン形成や戦略遂行にどのように影響するかを明らかにしています。岡山県内の企業を対象としたアンケート調査を通じて、経常利益や新製品売上高の比率など複数の業績指標と各次元の評価との統計的検証を行い、高業績企業と低業績企業の違いを示しました。

論文タイトル

地域製造中小企業の経営理念と経営者のビジョン

著者

戸前義夫(岡山大学経済学会雑誌掲載、2000年)​

新規性

本研究の新規性は、地域製造中小企業という従来十分に検討されなかった対象に対し、経営理念と経営者のビジョンという抽象概念が実際の経営成果にどのように寄与するかを体系的に分析した点にある。先行研究では大企業やベンチャー企業に焦点が当てられていたが、本稿は組織規模の特殊性を背景に、中小企業特有の実践的マネジメントや戦略の形成プロセスを定量的に検証している。さらに、理念とビジョンの相関関係や、環境適応性との関連性を明らかにすることで、実務面および政策面での示唆を提供している​。

研究手法

本研究は、岡山県内の従業員50人以上の企業1212社に対して郵送方式のアンケート調査を実施し、270社から有効回答を得た。その後、製造業かつ中小企業基本法に基づく従業員300人未満の企業に絞り、最終的に62社を分析対象とした。調査項目は、経営理念の有無をダミー変数で評価するとともに、ビジョンや戦略、外部環境への敏感性など、各次元を5点または7点尺度で測定。統計的手法としては、平均値の比較や相関分析を通じ、各要素間の関係性を検証している​。

実験方法

本稿における実験方法は、フィールド調査形式のアンケートによる実証研究である。平成10年10月~11月に岡山県下の企業へ質問票を郵送し、経営者自らの回答を収集。経常利益対売上高比率や新製品・新サービス売上比率といった経営成果指標を用い、経営理念の有無やビジョンの明確さ、価値観の浸透、対外環境の感度、戦略計画への精通度など複数の次元を評価。各項目は定量的尺度により数値化され、統計的検定を通じて高業績企業と低業績企業の差異が分析された​。

結果

調査分析の結果、地域中小企業においてもトップのビジョンは経営成果に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。高業績企業では、経営理念がしっかりと内在し、それに裏打ちされた明確なビジョンが示されるとともに、柔軟な軌道修正や戦略的学習が促進される傾向が見られた。一方、低業績企業では経営理念の浸透が不十分であり、環境変化への感度や戦略遂行において一貫性を欠く結果となっている。これにより、企業の基本価値が経営者の意思決定にどのように影響するかが浮き彫りとなった​。

考察と展望

本稿の考察では、地域製造中小企業の経営において経営理念とビジョンの両輪が、企業の持続的成長と柔軟な環境適応を実現する上で不可欠であることが示された。高業績企業においては、経営理念がビジョン形成の指針として機能し、結果として戦略の具体化や現場の柔軟な対応につながっている。一方、低業績企業では理念の欠如が不安定なビジョン形成を招いており、今後は事例研究や指標の精緻化が求められる。また、政府や地方自治体の中小企業支援政策において、経営者のビジョン刺激を目的とした施策の重要性も示唆される​。

社会実装に向けたキーワード

地域振興、中小企業支援、経営理念、経営ビジョン、戦略計画、組織マネジメント、イノベーション、市場競争、柔軟性、持続成長

論文リンク

https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/4/41466/20160528043027566709/oer_032_2_035_057.pdf

Organizer

Yukey
YukeyCatalyst & Director
セールスマーケティング、エンジニアリング、デザインのすべての業務経験をもち、ベンチャー企業特有の僅少リソースでの事業立ち上げに強みを持つ。活用できるナレッジを組み合わせて戦略を練り、自らサービスデザインを行うことで、初期顧客を開拓する。ビジョン経営にも知見があり、社内の制度設計や組織開発、チームの素質を活かした巻き込み型のリーダーシップを武器に、内外の改革を推進する。2022年、国内ビジネススクールにてMBA取得済み、2025年、国内理系大学院にて技術経営課程在籍。